パフォーミングアーツアーカイヴス研究会


2009年度第2回例会 松竹大谷図書館見学会 見学記

6月9日(火)奇しくも、この図書館の資料整理基盤を作られ、その活動に尽力された故・小河明子氏の命日であるこの日に見学会が設けられたのも、何かのご縁と思わずにはいられません。予定通り見学会を行いましたのでご報告します。

昨年開館50年を迎えた松竹大谷図書館は、松竹創設者である大谷竹二郎、白井松次郎所蔵本が基本にあり、歌舞伎台本から映画シナリオ、テレビシナリオ、演劇スチール写真、ポスター、プログラムなど、現在総資料数404,784点という膨大な資料を広く一般の利用に供している演劇・映画の専門図書館である。2002年よりADK松竹スクエアの3階へ移転し、室内ではパソコンで資料検索ができるようになるなど、一層利便性が充実しているようである。もちろん、今となっては貴重なカード目録の引き出しで壁が埋まっている閲覧室はなかなか味わい深く、失いがたいものではあるが、同時に今後インターネットを介しての検索も可能になることを期待したい。

収集範囲は松竹および、東京を中心とした大劇場が主とのことであった。レファレンスは、年間1,400件で電話も可能だとのこと。半数は歌舞伎関係の質問で、一般の人が4割、社内(松竹)が3割ということだった。松竹の社員がよく使うというTVガイドがずらりと配架されていたり、個々の映画についての広報関係スクラップ(松竹の担当者に寄贈してもらう)があったりと、企業資料室の意義も大いにあるようだ。利用者数は年間3,0 50人で一日平均10人程度、専門家よりも一般の利用者の割合が高いそうで、いかにオープンな図書館かということがわかる。実務については、現在6名の司書の方が分担して整理、カウンター業務にあたっており、今回案内を担当してくださった井川さんをはじめ、女性が大活躍していると見受けられた。

さて、私が最も感心があるのは、多岐にわたる資料の整理方法と分類であったが、これは故・小河明子氏の仕事に敬意を表するほかない。その仕事ぶりなどは、当研究会での過去の例会で紹介された同人誌、『図書館と本の周辺』No.13、ライブラリアン・クラブ刊(2002.6)を参照いただくとして、50年ほぼ改訂することなく引き継がれている分類表がすばらしい。
資料の大半が7門(芸術)にあたるため、芸術部門細分表というものがあり、これによって現在も分類作業が行われている。例えば、775新派・演劇はSとし、以下S10新派、S20新劇、S30新国劇、S50商業演劇・軽演劇など、S60素人演劇、S70児童劇、S80学生演劇、S90ラジオドラマという具合である。774の歌舞伎はK、778の映画はM、映画台本はES(松竹映画)、E(他社の日本映画)、EF(外国映画)と細分している。
歌舞伎については独自の件名表もあり、松竹ならではの用語で統一している。「藤原鎌足」ではなく、「入鹿と鎌足」を採用、「赤穂義士」ではなく「忠臣蔵」を採るといった具合である。案内役をしてくださった井川氏が作成中の上演記録データベースにもこの件名表が適用されており、小河氏の仕事をしっかり引き継がれていることを実感した。目録作成にあたっては、標準を決め、これを遵守することが必要だが、松竹大谷図書館が着実に成長し、高いレベルを保っている理由にはこうした真摯な仕事ぶりが貢献しているのであろう。

資料そのものの整理法にも様々な工夫がみられた。台本類は厚紙で綴じられ、背表紙に墨で筆書きのタイトルがそれぞれ記されている。保存を考えたとき、墨が最も耐久性があるという理由とのことである。ポスターは畳まれているものの整然と並んでおり、写真資料は専用の引き出しに使いやすそうに収められていた。写真は土産用の葉書、ブロマイド、舞台の大道具用記録写真など特徴のあるものが多い。

専門図書館における独自分類、独自整理法は各機関でそれぞれ工夫されているので、今後の研究課題としても参考にさせていただきたいものである。

ともあれ、松竹大谷図書館は、確固たる資料を一般利用者主体の整理法に則って管理、公開している希有な図書館の一つという印象を持った。

 今回の見学会について快諾してくださり、詳細に書庫内をご説明下さった井川様をはじめ、スタッフの皆さまに心より感謝を申し上げます。

                                   文責 古川


Last modified: Tue Nov 17 20:47:04 JST 2009