ダンスの両義性について

「学際」がキーワードだった1970年代からはや30年近くたち21世紀初頭は「学融合」の時代です。Dance Studies(舞踊学)も隣接諸科学と融合をする時代になりつつあります。 かつて「学際」という言葉がまだ人の耳に慣れなかった・違和感があった時代に、思想家の林達夫は「学芸際」という言葉を使いました。諸科学が隣接するのみならず、芸術も含めて芸術と諸科学が隣接すべきであるということです。また近年ギリシアでは運動を単にスポーツとして見るのみならず、運動と社会の様々なものを関連づけて考えようとするムーブメントがオリンピック・ムーブメントに続くスポーツ・ムーブメントとして模索され続けています。

現在ダンスは「スポーツ」と「アート」という2つの領域にまたがる両義的な存在です。ダンスは古代原始社会の宗教以来「スポーツ」(身体文化)の起源であり、「アート」(しばしば美術や芸術と翻訳されますが)としては西欧近代美術史に20世紀になってやっと取り込まれるにいたりました。19世紀から20世紀にかけて「健康」や「純粋芸術」といったイデオロギーからその存在意義を問われ揺れてきたと考えることもできます。そして21世紀の今、いまある限界の中から新しいダンス・ムーブメントをつくりだしていくことが必要です。 1940年代にC・P・スノーが「2つの文化と科学革命」(みすず書房)で記したように19世紀から20世紀にかけて科学者は人間性を無視した研究開発を行い、文学者は「人間の限界」を論じることが多く現実的な問題な一般社会との接点が薄れました。そして19世紀から20世紀にかけて体育・スポーツの研究者は人間の身体のみを専門的に分析する事が中心となり、同時にプロスポーツの発達から一般社会との接点がとりにくかったといえます。また体育・スポーツには身体知・暗黙知・体験知など様々な知が含まれているのもかかわらず、あまり言語化されない・領域外に伝達しにくい・科学として分析されなかった(宗教や武道として伝達されていた)ということもあります。